輪友Bさんから古いロードレーサーが持ち込まれました。
型式はPA10Eかもしれないという情報がありました(フレームからは確認できず)。だとしたら1972~1977年くらいに販売されていたもの。ブリヂストン・ロードマンと同時期(少し前)です。
価格も位置づけもロードマンのロードレーサータイプといったところでしょう。
フレーム素材はクロモリ(クロム・モリブデン鋼)ではありません。プジョーオリジナルで、マンガン・モリブデン鋼のようなもの?
その日のうちにBB周りに手をつけました。やれるかやれないかの判断をしなければなりません。クランクを外すにはコッターピンを外します。まず左側、バイスを使って抜けました。そして右側、かなり手強いです。安物バイスが割れました。
大き目のシャコ万を用意して、ぐりぐりやってみましたがそれでも抜けません。
しょうがないので右クランクが付いたままBBから外してみることにしました。左ワンはすぐに取れました。右ワンはチェーンリングを外すとギリギリ工具(モンキー)が掛かります。しかしこれがなかなか外れず、ようやくちょっとだけ動きました。が、感触が変。試しに逆に回したら、、、緩みました。
BB幅は68mm、BSC規格だと思い逆ねじの緩め方向に回していました。危うくとどめを刺すところでした。
左ワンを取った時点で、確認のため手持ちのBSC規格の左ワンを入れたら入ったのに・・・。
調べてみたらフレンチ規格というのがあるんですね。ねじの径とピッチはかなりBSCに近く、ただし左右とも正ねじ。
BBねじのフレンチ規格:径35mm、ピッチ1mm に対して BSC規格:径1.375インチ=34.925mm、ピッチ24tpi=1.0583mm。フレンチBBにBSCワンは4山程度なら抵抗なく入ります。
その後仔細に調べると、絵に描いたように、徹底的にフレンチ規格で作られていることがわかりました。
現在のものとは仕様が違っていたり形式が違っていたり、すぐに置き換えられるものは、フロントホイールとチェーン、ぐらいでしょうか。
さらに現状を把握
・ヘッド周り:ガタガタなるも調整で直りそう。→分解整備
・ステム:固着はなし
・ブレーキレバー:ブラケット(樹脂)の劣化が心配
・ブレーキ:スプリングが生きていれば使える。シューはカチカチ
・Wレバー:動作はする。樹脂部品の劣化が心配。もちろんフリクション
・シートポスト:現時点では抜けないが固着していない(回る)
・チェーン:1/2×3/32、かなり硬くなっている
・BBとクランク:右クランクのコッターピンが抜けない。クランクアームは鉄製、スパイダーは3本(チェンリング固定ねじは6本)、ペダルねじはフレンチ規格
・スプロケ:14・15・17・19・21のボスフリー、フリーは軽快
・リアハブ:ガタあり、動きは重い
・フロントハブ:ガタあり。OLD100mmなので現行品と置き換えが可能
・FD:スライド式。樹脂部分にダメージがある可能性がある。キャパなど不明
・RD:FD同様樹脂部品のダメージが心配される。スプリングの劣化も懸念。モデル名はプレステージ、キャパシティー32T
・RDハンガー:現代のものと違い、ねじがない。RD側輪にめねじが切ってありハンガーを挟んで内側からボルトで固定する。Simplex製
・フレーム:左シートステイの下の方、内側に錆がある。
・ワイヤー類:全て劣化でボロボロ、タイコが合うか少々心配
・バンド類:トップチューブのアウター止め、ダウンチューブの左Wレバー台座、インフレーター受けに使っている。鉄+クロームめっきで、めっきの剥がれや錆がある
・クイック:錆・めっき剥がれで動きが渋い
・リム:振れはともかく、変形している。36H
車重はリアタイヤ欠落状態で11.1kgでした。
この後FDの樹脂部品の割れが判明。
さらにRDテンションプーリーの割れが判明。
持ち主さんの希望(Bさんの代弁)は、あまりお金をかけずに乗れるようにしたい。
新しいパーツになってもこだわらない(さほど自転車に詳しくない)。
クリンチャータイヤを使いたい。
ギヤ比を大きく(軽く)したい。
というものです。
何となく再生できるような気がしてきました。
現状を整理して作戦を立てました
①使えないもの
FD
RDの変速プーリー
リム・スポーク
ワイヤー類
②替えたいもの
クランク・チェーンリング・BB
チェーン
ブレーキシュー
サドル
③余裕があったら替えたいもの
ブレーキ(ロングリーチならサイドプルが使えそう。レバーも交換)
ハブ(リアはシマノ・カセットスプロケ用のOLD120mmが販売されている。これにすれば8速のうちの6速が使えて、さらにシフトレバーも替えればインデックス機能が使える。スプロケを大きくできる)
ただしレバー台座は現行品と形状が違うので加工が必要。真ん中のねじのピッチも違う。
あまりお金をかけても何なので、①・②ということにします。
バーテープ・ペダルも交換です。
--交換パーツ詳細--
・FDは修復不可、シマノFD-6700(φ31.8バンド式)が手持ちであるのでこれに交換。ただしシートチューブ径が微妙に違うのでスペーサーを製作
・RDはHi、Loのストッパーねじの受け部分の樹脂にひびあり。が、使えると判断。リアメカハンガーの形状が現在のものと違うため、最近のRDとは単純に置き換え不可。割れているテンションプーリーはエポキシ接着剤で補修したが、安全のため交換することに。社外品(BBB)のプーリーだが、取付けの厚み・取付けボルト径が現行のもと異なるためにブッシュを製作
・ボスフリーはピンスパナの穴をタガネ(差し込みドライバーの先を加工したもの)で叩いて外した。これが外せないとホイールが組めない。後に使えそうなボスフリーリムーバーを試しに購入したらそれが使えた。20山のレジナ用
・BBはやってみなければ分からないが、ねじが4~5山程度なら噛みそうなのでBSC規格のねじ山を数山落として装着する作戦。ねじは本来3山くらいでほとんどの力を受けるので大丈夫、とする。左右正ねじなのでBSCの左用BBカップを左右に使うことになる。ママチャリみたいに右を締めてから左で玉当たりを調整するような、左右非対称のBBカップは使えない。左右対称のホローテックⅡタイプにする予定
・クランクはシマノ105ノーマルに交換(Bさんのタイレルに装着していたもの)。52×39
・チェーンは幸いに幅3/32なので、ナローチェーンでなければ現行品で使えそう
・ブレーキシューは、KOOLSTOPから最近MAFAC用が発売されていた。MAFAC社自体は20年くらい前になくなっている
・サドルも手持ちの軽いものと交換予定。ただし、やぐらとシートレールの関係でサドルの前後調整代は10mmくらいしかとれない
--ギヤ比について--
オリジナルのチェーンリングは52×45、リアは14-21。このギヤ比を今のクランクに換算すると、
インナー×ロー 45×21 は 34×15.9 39×18.2
インナー×トップ 45×14 は 34×10.6 39×12.1
アウター×ロー 52×21 は 50×13.5
アウター×トップ 52×14 は 50×20.2
いちばん軽いギヤでも真ん中辺りのスプロケということになります。
--用意したもの(主なもの)--
ケーブル(シフト・ブレーキ)、ブレーキのチドリにシフトワイヤーを使用
ブレーキシュー (KOOLSTOP MAFAC用 ウェット用)
リム(サンエクシード シャイニーリム 700C 36H)×2
スポーク(DTSwiss チャンピオン1.8mm 286mm)
リムテープ・チューブ・タイヤ
BB(シマノ SM-BB4600)×2
クランク(シマノ 105ノーマル)
チェーン(シマノ CN-HG50 6-8速用)
プーリー(BBB 11T スチールベアリング)
FD(シマノ FD-6700)
バーテープ
サドル
--実作業--
分解整備・清掃から組み立て、時系列で。
131130
・現状チェックとクランク・BBはずし。右コッターピンは万力でも抜けない。
・シートポストは回るけど抜けない。また、ボルトを締めても固定が甘い。
・ステムは問題ない。
131201
・ハンマーで叩いてもコッターピンが抜けない。BBとクランクの再利用を諦める。
-------
3週間ほどあいてますが、この間にどこまでやるか・何が必要かを煮詰めて部品の発注など。
-------
131221
・ボスフリーの取り外しに成功、前後ホイールをバラしてハブだけにした。
131222
・RDの分解整備、プーリーのグリスアップ。このプーリーは硬球が入っていて玉当たりの調整が可能。テンションプーリーは樹脂のギヤ部分が割れていたのでエポキシ接着剤で補修、しかし不安なので後に交換。
・Wレバーの分解整備、右レバーの樹脂ワッシャー(滑ってフリクションを得るもの)が欠落。左のワッシャーを右に移植して、左は0.3mm厚の銅板(りん青銅)で製作。
・ブレーキアーチの分解整備、ブレーキシュー交換。
・ハブの分解整備、グリスアップ、玉当たり調整。
・ボスフリー清掃。
・クイックシャフト清掃、注油。
131223
・バーテープ取り外し、ハンドル取り外し、清掃。
・ステム清掃。
・ブレーキレバー分解整備、レバー基部の変形を修正。
131228
・ヘッドパーツ取り外し、分解清掃。
・フレーム、フォーク清掃。汚れ落としはパーツクリーナー、コンパウンド、オレンジオイルなどを試したが、アルコールが効果あり。
131229
・フレームの補修、ヘッドパーツ打ち込み、フロントフォーク玉当たり調整。
・バンド類分解清掃。
・シートポスト、やぐら分解清掃。
・ホローテックⅡBBのねじ加工、装着。クランク装着確認。
131230
・FDスペーサー製作。
131231
・スポークが入ってきたので前後ホイール組み、ボスフリー装着。
140103
・RD、Wレバー装着、シフトワイヤー張り。シフトのタイコは現行のものはやや大きく、削らなければ入らない。
・クランク、FD、チェーン装着、シフト動作確認。
・ブレーキアーチ装着。
・ステム、ハンドル、ブレーキレバー装着
・ブレーキワイヤ張り、調整。チドリ部分のワイヤーはシフトワイヤーを使用、ここもタイコを削らなければ入らない。
ここまでで、バーテープを残して走れる状態になりました。家の周りを試走、ブレーキの効きは良いが強めの制動で鳴きもかなり盛大。ブレーキアーチの剛性が低いのでしょうがないのかもしれない。
ペダルレスで9.99kg
140104
手賀沼まで試走しました(約55km)。心配していた走行中の変速は問題ありませんでした。チェーン鳴りもしません。リアの変速はもたつきますが、これはしょうがないでしょう。直進性は非常に良いです。ホイールベースは1000mmでした。
途中でテンション側と同様に変速プーリーが割れました。自走可能だったのでそのままリアは変速しないように家まで戻ってきて、早速補修をしました。もともと両方とも10Tだったので11Tが入るか心配でしたが大丈夫そうです。これでプーリーの不安要素が消えました。
やる前から分かっていたことですが、旧車の整備での肝は固着などがなくバラせるか・壊れてないか、パーツが手に入るか、現行パーツで置き換えできるか、それと掃除でしょう。
今回のフランス車は今では見かけないフレンチ規格、現行パーツでそのまま使えるものはフロントホイール(ハブ)、チェーンくらいでした。もっともハブは交換しませんでした。ただ、少し工夫すれば使用可能となる部材も少なからずあります。しかし樹脂部品の劣化はいかんともしがたいですね。
OLD120mmのリアハブ、MAFAC用ブレーキシューなどオリジナルではないにしろ、今でも新品で手に入るのは喜ばしいことです。
使用工具も今時のとはかなり違います。六角ナットと六角ボルトが多く、サイズは5,6,8,9,10,12,15、それも2本同時に使用する場面も多くあります。それと小ねじは全てマイナスドライバーで回します。オリジナルの状態ではプラスドライバーは必要ありません。アーレンキーはRDの固定ボルトただ一ヶ所だけ必要でした。
清掃にはずいぶん時間を費やしましたが、だんだんきれいになって行くのは気持ちのいいものです。重かった動きも、清掃とグリスアップでスムーズになります。
不安材料を挙げるとすればRD本体でしょう。RDは樹脂材料を多く使っているので劣化が心配です。もしものためにチェーン切りは携行したほうが良いかもしれません。現行のRDは取付け方法の関係ですぐには置き換えられないのが難点です。対策は考えておきましょう。
それとWレバーのフリクションを調整する蝶ねじも樹脂製です。ねじピッチが違うので、これも今の製品ではすぐに代用できません。
いろいろと調べ物をしてたくさん悩みましたが、結構面白かったです。
最後にバーテープを巻きました。もっと上手く巻きたかった・・・。
完
< 追記 >
取り外したもの
< 追記 2 >
ボトルケージ台座を付けました。強度の面からフレームには穴を開けたくなかったのですが、一方的に信頼している自転車工房の方(構造力学に詳しい)が、同じようなことをやっているのを知って踏ん切りがつきました。考えてみれば、引っ張り(または曲げの外側)でなければさほど問題ではないですね。
断面はタッチペンで防錆処理。ブラインドナット(アルミ)を埋め込みました。
切り粉の掃除のためBBを外しています。